対話型生成 AI を "もう1人のメンター" とするオンボーディング 前編:なぜ生成 AI をメンターと捉えるか

こんにちは。Platform Team / Sys-infra Unit の青山(@MintoAoyama)です。Repro に入社して6か月が経ちました。

本記事は、入社始めの3か月の経験や感じたことを元にした、生成 AI をオンボーディングに活かす方法の提案になります。前編では「なぜ生成 AI を "もう1人のメンター" と捉えるか」について、後編では実際のツールと使い方をご紹介します。

オンボーディングとは

オンボーディングとは、新しく組織に参加したメンバーが業務・文化・人間関係などを理解し、独り立ちできるようになるまでの一連のプロセスです。

入社直後の研修や手続きをイメージしやすいかもしれませんが、実態はそれより広い概念かもしれません。「自分は何をすべきか」「誰に何を聞けばよいか」「物事がどういう経緯でそうなっているか」、こうした文脈を少しずつ自分のものにしていく時間も工夫も必要とする営みです。

ソフトウェアエンジニアのオンボーディング

ソフトウェアエンジニアのオンボーディングには、一般的なオンボーディングに加えて技術的な固有の難しさがあります。

  • コードベースの把握: サービスの規模が大きくなるほど、どのリポジトリが何をしているか、どこから読み始めればよいかすら分からない状態からスタートします。
  • システムアーキテクチャの理解: どのサービスがどのサービスと通信しているか、データはどう流れどこに格納されるか。ドキュメントがあっても、アップデートなどに伴い実態と乖離していることも珍しくありません。
  • チームの開発文化や慣習: コードレビューの粒度、ブランチ運用、デプロイのフロー、各種ツールの使い方など、どこにも書かれていないローカルルールは思いのほか存在します。

こうした知識は「業務をこなしながら少しずつ身につける」ものですが、それを加速するため問いに答えてくれる主な存在がメンターになります。

Repro のオンボーディング環境

Repro では、全社オンボーディングとチーム内オンボーディングの両方が用意されています。

全社オンボーディングでは、入社オリエンテーションに始まり、数週間を掛けて全部門を横断する形で個別にオンボーディングが行われます。製品・技術に関する理解を深めるための内容も含まれており、会社全体の事業・製品・組織を体系的に学べる機会が設けられています。各部署・チームの皆さんとの自己紹介も含まれており、入社してすぐの「何でも聞いてください」という空気にはかなり助けられました… 🙏

チーム内オンボーディングでは、社内 wiki(esa)にいくつかの資料が整備されています。

  • チームビルディング資料: チームのビジョン・ミッション・構成を紹介しつつ、新旧メンバー双方の期待値をすり合わせるための資料
  • メンター向けチェックリスト: 入社前の準備から初日・1週間・1か月と段階別にメンターがやるべきことをまとめたリスト
  • 3か月間のロードマップ: 月ごとの目標と行動計画を定め、何をもって「独り立ち」とするかを明確にした資料

こうした資料が一通り揃っていることで、受け入れ側・新メンバー双方にとって「次に何をすべきか」の見通しが立ちやすくなっています。十分な期間も用意されていることで安心してオンボーディングを進めることができます。

その一方で、Repro は業態としても、システムとしても、豊かなコンテキストを持つ組織です。既存メンバーの話を聞いていても「キャッチアップには時間がかかる」という声をよく耳にします。組織が成熟するほど蓄積されるコンテキストも増えていく…。歴史ある組織の証でもありますが、入ったばかりのメンバーにとっては越えるべき壁でもあります。

"人が人に聞く" コスト

メンターに何でも聞ける環境は理想的です。前提として、そのような役割を用意していただいている以上は「"頼ってしまう" ことが正しい」に尽きます。ただ実際には様々な状況が想定されます。

まず「少し調べれば分かること」と「調べても分からないこと」の境界線は、調べる前には判断しにくいものです。新しい環境ではなおさら「これは聞くべき質問か」という判断自体が難しい。

ふと湧いた疑問を脊髄反射的に関係者へ投げ続けると、相手の作業を止めてしまうことがあります。相手が集中しているとき、別な対応に追われているとき…。メンターにとっての対応コストは、質問者の想定よりも大きなこともあるかもしれません。

「何が分からないのかが分からない」という状態にもグラデーションがあります。「用語の意味が分からない」から「なぜそういう設計になっているのか分からない」まで様々で、自分の疑問を言語化できていないと、そもそも聞くことすらできません。 (一般的な用語ですら、組織によっては異なる意味を持つことも珍しくなかったりします。コンテキストも様々です)

こうした問題は、メンターの質や組織の文化に原因があるというよりも、「人が人に聞く」という構造そのものが持つ、避けがたいコストと言えるのかもしれません。

対話型生成 AI が変えたこと

社内の情報にアクセスしている対話型生成 AI、いわゆる RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)ツールなどへの問い合わせは、言ってしまうと「記録に基づいた、自然言語によるキーワード検索」です。

正確な用語を知らなくても、ざっくりした言葉で質問できます。「○○ってどういう意味でしたっけ」「△△の設定ってどこかに書いてありますか」。こうした問いを、相手の都合を気にせずいつでも何度でも投げられます。多少間違ったことを書いてもそれなりに汲み取ってくれるのも素晴らしい仕組みです。

特定の期間やキーワードにまたがる情報を横断的にまとめてくれる "点と点をつなげる" 回答も期待できます。単一のドキュメントを読むだけでは見えてこない全体像が、補助的に浮かび上がることがあります。

ただし、これを "メンターの代替" と捉えるのは少し違うと考えています。生成 AI は間違えることもありますし、古い情報を参照することもある。あくまで「質問する前に自分でできる調査の質を上げる」ためのツールとして考えるべきです。

調べてもなお分からないことを、より明確な状態でメンターに聞く。その精度を上げるために対話型生成 AI を活用する。これが "もう1人のメンター" という表現へ込めた意図です。


後編では、実際にどのツールをどう使うか、そして何に注意すべきかを紹介します。

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